食品をネットで売るには、特定の許可や資格の取得が求められます。加えて、食品表示法などの法律を遵守することも不可欠です。この記事では、ネットで食品を販売する方法と、販売にあたって欠かせない許可や資格、注意が必要な法律などについて解説します。参入のハードルが高くみえる食品販売ビジネスですが、必要な許可や資格を理解し、やるべきことをひとつひとつクリアしていけば、不安を感じることはありません。
ネットでの食品販売に挑戦したい人は、ぜひこの記事を参考にしてください。
ネットで食品販売する方法
1. ネット販売する食品を決定する
ネットショップで食品販売を始める際には、まずどのような商品を扱うか慎重に選ぶ必要があります。販売する食品を見つけるために、トレンドを追うこともひとつの手段です。その場合は、市場のニッチを見つけ出し、競争が少ない分野に焦点を当てるとよいでしょう。市場の需要を探るには、GoogleトレンドやSNSを活用し、現在注目されている食品の動向を調査する方法が効果的です。
加えて、商品の持つ独自性や提供する市場における差別化ポイントを明確にすることも大切です。食品を取り扱うため、傷まない保管方法や配送方法、賞味期限などの特有の問題も考慮に入れると、アイデアがより現実的なものになるでしょう。
2. ビジネスモデルを決定する
オンラインでの食品販売には、主に2つのビジネスモデルが考えられます。
ひとつは自ら食品を製造し、消費者に直接販売する方法です。ハンドメイドビジネスの場合、自宅での生産や商業施設の利用、または他の製造業者との協力が必要になることもあります。
もうひとつは、食品を仕入れて販売する方法です。取り扱う食品によっては、営業許可が不要な場合もあるため、初心者でも比較的始めやすい事業といえるでしょう。ドロップシッピングを活用すれば、在庫を持たずに販売することも可能です。
どちらのモデルを選択するかは、参入する市場や資金、運営の複雑さを考慮して決定するとよいでしょう。
3. 資格・許可・法律を調べて必要な対応を取る
ネットで食品を販売する際には、法律や規制の知識が不可欠です。最初に必要な資格について調べましょう。ネットで食品を販売するにあたっては、食品衛生責任者資格や食品衛生管理者資格などの資格が求められることがほとんどです。資格がないと販売に必要な営業許可を取得できないため、持っていない場合は先に資格を取得しましょう。
資格の取得後は、管轄の保健所へ営業許可の申請を行います。申請には複数の書類提出が求められるため、管轄の地方自治体や厚生労働省の公式サイトで確認しましょう。
営業許可が下りた後は、法律に従って営業する必要があります。食品衛生法や食品表示法、景品表示法、計量法など、販売する食品の種類に応じた法律を調べて遵守しましょう。
必要な許可や資格を取得する方法や、詳細な規定について不明点があれば、地方自治体や保健所に確認することが重要です。法的な要件が複雑である場合は、弁護士に相談するのもひとつの手です。
4. 供給者のライセンスや認証を調査する
ネットで食品販売を始める前には、供給者の調査が重要です。販売する食品の製造に取り入れたい材料や販売したい食品を見つけた後は、必要な認証や資格があるかどうかを確認することが大切です。たとえば、オーガニック製品を取り扱う場合、供給者が正式なオーガニック認証を持っているかを調べましょう。
5. ブランド構築に注力する
オンラインで食品を販売する際には、顧客は試食ができないため、ブランドのイメージ作りが重要です。ブランドの魅力を効果的に伝えるには、販売サイトにおける商品の説明欄やキャッチコピーなどを工夫するとよいでしょう。食品が美味しそうに見えるパッケージデザインや写真など、視覚的な要素にもこだわりを持つことで、商品はさらに魅力的に見えるはずです。そのため、必要に応じてデザイナーを採用することも検討する価値があります。
6. 開業コストを計算する
食品ビジネスを始める際の費用は、計画段階でしっかり見積もることが重要です。必要な経費には、ECサイトの開設費用や原材料の購入費、必要な許可や資格の申請費、広告宣伝費、梱包材のコストなどが含まれます。もし従業員を雇う場合は、人件費も予算に加えましょう。また、専用の生産施設が必要な場合は、商業施設の賃料や共有キッチンの利用料などを検討する必要があります。
7. 食品の販売価格を決定する
利益を伸ばすためには、食品の販売価格をきちんと考える必要があります。販売価格を設定する際は、最初に商品の原価率を計算しましょう。原価には、原材料費や人件費、製造費が含まれます。原価率は、売り上げに対する原価の割合を指す指標で「原価÷売り上げ×100」で計算できます。たとえば、売り上げが500万円で原価が150万円なら、原価率は30%です。
原価率が高いと得られる利益は少なくなるため、顧客にとって購入しやすく、利益も維持できるような価格を考えることが重要です。とはいえ、一度で適切な価格を決定するのは難しいので、実際に販売しながら価格を調整していくとよいでしょう。
8. 賞味期限を考慮して仕入れ量を決定する
食品の仕入れにおいては、賞味期限の管理が非常に重要です。賞味期限が短い商品を扱う場合は、大量に仕入れすぎると売れ残り、最終的には廃棄せざるを得なくなるリスクが高まります。顧客に新鮮な状態で商品を提供できるよう、在庫量を慎重に管理しましょう。
具体的には、過去の販売データを分析し、需要を予測することから始めることをおすすめします。事業を始めたばかりの時期は、少なめに仕入れることも有効です。食品を自分で製造する場合は、仕入れた材料が賞味期限内に使用できる量を見積もり、計画的に使用することが求められます。
9. 配送の規定や制限を調べて適切な方法を決定する
ネット食品販売では、食品の配送も考慮すべき大切な要素です。特に国際輸送の場合は、出荷する食品が発送先の国での法律に適合しているかを確認する必要があります。仕向国の特定の規制や制限も把握しておくことも欠かせません。
加えて、商品が破損しないよう適切な梱包材を選ぶことも重要です。壊れやすい商品や特殊な保護が必要な商品の場合、梱包コストが増加する可能性があります。そのような事態を考慮に入れて、配送料を設定するとよいでしょう。
適切な梱包を考えるのが面倒に感じる場合は、フルフィルメントサービスを利用することをおすすめします。フルフィルメントサービスは、商品の梱包や配送といった物流業務を第三者が代行するサービスのことです。商品の特性上、配送が難しい場合は、ローカルデリバリーや店舗での受け取りなどの代替案を提供するとよいでしょう。
10. 販路を決定する
ネットショップで食品を販売する場合は、自社ECサイトを利用する場合が多いでしょう。しかし、ネットショップのみでは顧客へのリーチが限られることもあるため、他の販売チャンネルとの併用を視野に入れる価値があります。
たとえば、フリマアプリやマーケットプレイスへの出品も選択肢のひとつです。メルカリやラクマのようなアプリでは、販売手数料が発生しますが、初期投資を抑えて事業を始められる利点があります。一方、マーケットプレイスでは、Amazon(アマゾン)や食べチョクのようなプラットフォームを利用して、すぐに商品を販売開始できますが、競争が激しく価格圧力に晒されることもあるでしょう。
各販路の特徴を理解して、自分のビジネスモデルや商品特性に合った方法を選ぶことが重要です。
11. マーケティングを実施する
マーケティングは、食品販売ビジネスを成功に導くために欠かせない取り組みです。オンラインで販売する以上、消費者が製品を直接味わうことができないため、感覚に訴えられるようなマーケティング手法が重要になります。たとえば、SNSで日々の活動や商品の写真・動画を積極的に投稿するなどのSNSマーケティングは、オンラインストアが行っている代表的な手法です。
オンラインに限界があると感じているなら、オフラインで取り組みを行うことも効果的なマーケティングアイディアです。ファーマーズマーケットへの参加やポップアップショップの運営、食品展示会でのプレゼンテーションなどを通じて、直接消費者と接触し、商品を試してもらう機会を設けましょう。
ネットで食品販売するのに必要な許可
ネットで食品販売を行う際には、ほとんどの場合で「食品衛生法に基づく営業許可」が必要です。食品衛生法に基づく営業許可は、食品の安全を保ち、消費者への衛生的な食品提供を目的として厚生労働省及び消費者庁が管理しています。
購入した商品を小分けにして再販売する場合には、食品衛生法に基づく営業許可の他に「製造業の許可」が求められることもあります。
食品衛生法に基づく営業許可の対象業種
調理業:飲食店営業・調理機能付き自動販売機
販売業:食肉販売・魚介類販売・魚介類競り売り
処理業:集乳・乳処理・特別牛乳搾取・食肉処理・放射線照射
製造業:菓子・アイスクリーム類・乳製品・清涼飲料水・食肉製品・水産製品・氷雪・液卵・食用油脂・みそ・しょうゆ・酒類・豆腐・納豆・麺類・そうざい・冷凍食品・漬物・密封包装食品・食品の小分け・添加物
食品衛生法に基づく営業許可の対象業種は、上記のとおりです。令和3年6月からは「営業届出制度」が導入され、これまで許可対象外だった業種も届出が必要となりました。詳細は、厚生労働省のウェブサイトで確認ができます。
食品衛生法に基づく営業許可の取得手順
食品衛生法に基づく営業許可を取得するための手順は、上記のとおりです。事前相談では、事業施設の図面といった資料の持参が求められます。申請に際しては、営業許可申請書や営業設備の大要、配置図、許可申請手数料、登記事項証明書、水質検査成績書、食品衛生責任者手帳の提出が必要です。
なかでも施設検査は重要で、指定された共通基準および特定基準を満たしていない場合は、許可は得られません。無許可で営業を行った場合の罰則も厳しく、最悪の場合、営業停止や懲役、罰金が科されることもありますので注意しましょう。
ネットで食品販売するのに必要な資格
食品衛生責任者
食品衛生責任者は、少なくとも1名は各店舗や施設に配置しなければならない人材です。ネットで食品販売する際も同様で、食品衛生責任者の資格を有する人が求められています。主な職務内容は、食品の取り扱いに関わる衛生管理、従業員に対する衛生教育の実施、必要な改善措置の提案、保健所による講習会への参加などです。
なお、後述する食品衛生管理者の資格があれば、食品衛生責任者の資格は不要です。
食品衛生責任者の取得手順
食品衛生責任者を取得するには、都道府県が主催する養成講習会に参加して、所定の試験に合格する必要があります。講習と試験は1日で実施され、およそ6時間で完了します。試験の難易度はあまり高くないため、講習をきちんと聞いていれば問題なく合格できるでしょう。
参加にあたって特別な学歴や職歴の要件はなく、高校生を除いた17歳以上なら誰でも受験可能です。受講料や講習時間、申し込み方法は各都道府県によって異なるため、事前に関連ウェブサイトで確認しましょう。なお、すでに栄養士や調理師などの関連資格を持っている場合は、講習を受けずに食品衛生責任者としての資格が認められます。
食品衛生管理者
食品衛生管理者は、食品製造または加工施設における衛生管理を監督する人材です。食品や添加物の製造、加工を行う場合は、1名以上の食品衛生管理者の配置が義務付けられています。
食品衛生管理者の配置が求められる食品は、以下のとおりです。
食品衛生管理者を任命した事業者は、配置したことを都道府県の保健所へ15日以内に届け出る必要があるので注意しましょう。
食品衛生管理者の取得手順
食品衛生管理者の資格を取得するには、都道府県が認定した「食品衛生管理者登録講習会」を修了する必要があります。講習会を受講するには、以下のいずれかの受講資格が必要です。
講習会の具体的な日程や受講料は開催団体ごとに異なるため、都道府県の公式サイトや関連団体の公告を確認することが大切です。
ネットで食品販売する際に注意するべきこと
衛生管理
ネットで食品を販売する際、衛生管理は特に注意が必要です。衛生管理を怠ってしまうと、商品を食べた消費者の健康に悪影響を及ぼす危険性があります。
たとえば、食品を長時間保管または配送する場合は、適切な温度管理が求められます。温度や湿度が不適切だと食中毒のリスクが高まり、消費者の健康を損なう可能性があるためです。調理工程では、器具の洗浄消毒や手洗いの徹底、使用用途に応じた器具の使い分けが重要です。衛生管理にあたって不明点があれば、保健所に相談しましょう。
法律や条例の順守
ネットショップで食品を販売する際は、法律や条例を遵守することが不可欠です。定められた規定に違反があった場合は、営業できなくなってしまう場合も考えられます。ネットで食品販売をするにあたって、以下の法律と条例の理解は深めおきましょう。
食品表示法
インターネットで食品を販売する場合は「食品表示法」に従って、商品に食品表示ラベルを添付することが義務づけられています。主な表示項目は、以下のとおりです。
食品表示法に違反すると、3年以下の懲役、または300万円以下の罰金など、重い罰則が課されることがあります。
景品表示法
景品表示法は消費者の利益を保護するために、商品やサービスの誤解を招く表示を規制する法律です。景品表示法の目的は、商品の品質や価格、取引条件などが実際よりも優れているかのように誤認させる表示(優良誤認表示や有利誤認表示)を禁止することにあります。その他の誤解を招く可能性のある表示も規制対象です。違反すると措置命令が課せられ、それでも改善が見られない場合は懲役や罰金が科されることもあります。
計量法
計量法は、食品取引において正確な計量を保証し、消費者保護を目的とした法律です。製品の表記量と実際の量の間に許容される誤差を定めており、表示量が多くても少なくても誤差の範囲外であれば違反とされます。精米や粉類など特定の29種類の商品については、内容量の正確な表示が強く求められているため、該当する食品を取り扱う場合は注意が必要です。計量法に違反すると、最大で6ヶ月の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
健康増進法
健康増進法は、食品に関する虚偽や誇大な広告を禁止し、消費者の誤解を防ぐために制定された法律です。たとえば「食べると病気が治る」といった誤解を招くような表現は、処罰の対象となります。違反した場合、厚生労働省は勧告や措置命令を出し、従わない場合には6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
米トレーサビリティ法
米トレーサビリティ法は、米を含む製品の流通経路の明確化を義務付ける法律です。米の産地情報や取引の記録を、生産から販売・提供に至るまで詳細に保存しなければなりません。対象となるのは、米や加工品を取り扱うすべての事業者です。該当する場合は、義務付けられていることをきちんと確認しましょう。法律に違反した場合は、50万円の罰金が課される可能性があります。
条例
国の法律に加え、地域ごとに設けられた条例も食品表示に関して重要です。一例として、東京都では特定の食品に対し独自の表示基準が定められています。具体的には、調理冷凍食品の原材料配合割合や原料原産地名、かまぼこ類のでん粉含有率、はちみつ類の品名と原材料の割合や重量、カット野菜やフルーツの加工年月日などです。条例を遵守しない場合は、是正指導や勧告後に製造者情報が公表されることがあります。
まとめ
ネットで食品販売を始める際は、営業許可や食品衛生責任者などの取得が重要です。加えて、食品衛生法や食品表示法、景品表示法などの遵守も求められます。違反すると営業停止や罰金が科せられる可能性があるため、販売前に地方自治体や保健所で必要な許可を確認し、必要に応じて弁護士などから助言を求めるとよいでしょう。
ネットショップで食品を販売する際は、適切なブランド構築とマーケティング戦略が利益を伸ばすカギとなります。Shopifyで食品を販売すれば、効率的にブランド構築やマーケティングの実施が可能です。販売する食品の魅力を引き立てられるサイトを簡単にデザインできたり、カゴ落ち対策を自動で実施したりなど、便利な機能が幅広く備えられています。さらに、Shopifyのローカルデリバリーを活用すれば、顧客にとっての利便性を高めることもできます。無料体験も実施していますので、ぜひShopifyをご活用ください。
よくある質問
冷凍食品をネット販売するには許可が必要ですか?
冷凍食品をネット販売するにあたって、冷凍食品を製造する場合は「冷凍食品製造業の営業許可」が必要です。冷凍食品と他の食品製造を組み合わせて行う場合は「複合型冷凍食品製造業の営業許可」も求められます。
なお、製造せずに既製の冷凍食品を仕入れて販売するだけの場合は、許可は不要なものの「冷凍・冷蔵倉庫業の届出」が求められるため、注意しましょう。
食品をネット販売するときの消費税はいくらですか?
食品をオンラインで販売する際の消費税率は、軽減税率が適用され8%です。
野菜をネット販売するやり方は?
野菜をネット販売する主な方法は、上記のとおりです。オンラインモールや産直プラットフォームは、集客力が高い反面、手数料が発生するなど、それぞれにメリット・デメリットがあります。自分のリソースと目的に合わせて最適な販売方法を選びましょう。
文:Yukihiro Kawata