企業同士が商品を売買することができるBtoB卸売ストアは、BtoB ECとも呼ばれ、近年その市場を拡大しています。経済産業省発表の「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」によると、2022 年度の BtoB EC市場規模は、420 兆 2,354 億円(前年比 12.8%増)で、前年と比較すると 1.9 ポイント増の 37.5%を占めています。取り扱い商品の選定から注文、支払いまでオンラインで完結させることができ、業務負担軽減につながるというメリットもあることから、BtoB ECサイトのニーズが高まっています。
この記事では、Shopifyで卸売ストアを解説する方法から、卸売ネットショップを構築・運用するために便利なShopifyの機能、おすすめのアプリを紹介します。BtoB向けの卸売ストア構築を検討している方は必見です。
BtoB向け卸売とは
BtoB向け卸売とは、法人同士で行われる卸売取引です。具体的には、製造業者やメーカーと卸売企業の取引や、卸売企業同士の取引、卸売企業と小売店の取引を指します。
「BtoB」または「B2B」はBusiness to Businessという英語を略した表現で、企業間の取引を指します。卸売とは、製造業者やメーカーから商品を仕入れた卸売企業が、小売業者へと商品を販売することです。この2つの言葉を合わせたBtoB向け卸売では、これまで電話やFAX、メールを使った取引が主流でした。取引先ごとに条件が異なる場合や、取引数に応じて卸値の価格が変動するため、BtoC(Business to consumer)やD2C(Direct to Consumer)で使用されているECサイトをそのまま卸売ECサイトとして活用することが難しかったからです。しかし、近年では、これらのニーズに対応したBtoB ECサイトを開設したり、BtoBマーケットプレイスに参入したりすることで、業務の効率化や販路拡大を目指す企業が増えています。Shopifyを活用すれば、自社に合ったBtoB向けの卸売サイトを開設することができるので、その方法を見ていきましょう。
ShopifyでBtoB向け卸売ストアを開設する方法3つ
1. パスワード保護機能を使う
BtoB向けの卸売ストアのみを開設し、小売りを行わない場合は、パスワード保護機能の導入がおすすめです。通常のShopifyストアのようにショップを立ち上げて、パスワード保護をかけることで個人ユーザーからのアクセスを防ぎ、特定の顧客だけがショップにアクセスできるようになります。
設定の方法は、管理画面から [オンラインストア] をクリックし、 [各種設定] から [パスワード保護] へと進みます。パスワード保護機能を有効化し、希望のパスワードを設定するだけで、Shopifyストアを卸売ストアとして使用できます。
卸売顧客が少ない場合や、どの顧客にも同じ価格で商品を提供する場合に適している方法です。特定の顧客にのみ公開したいコレクションや、注文数・金額などに応じて限定販売を行うなど、より高度な設定を行いたい場合には、パスワード保護アプリのLocksmith(ロックスミス)やEasyLockdown(イージーロックダウン)がおすすめです。顧客別にアクセス制限ができるアプリで、特定のタグに該当する顧客だけが閲覧できるページを用意することができます。商品ページだけではなく、ブログやコレクションなどの一部に対するアクセス制限も可能です。
このようにアプリを追加することで、特定の顧客グループに割引価格を設定したり、大量注文へ特別価格を適用したりすることが可能になります。販売数の増加や販路拡大に合わせて、Shopifyアプリを追加してカスタマイズし、業務効率化を目指せます。
2. アプリを導入して卸売ストアを開設する
Shopifyアプリを使って、BtoCネットショップを卸売ストアとして開設できます。B2B Wholesale Hub(ビートゥービーホールセールハブ)を使用すれば、特定の割引を適用したプランごとに顧客を振り分けることが可能になります。このアプリにはマーケティング機能も備わっており、多くの商品を購入した場合に、割引率が高くなるように設定することもできます。
この他にも、BtoB向け卸売ストアでの取引や業務を円滑にできるShopifyアプリがたくさんあります。
業務の効率化に役立つアプリ
- Matrixify(マトリキシファイ):データのインポートやエクスポートができ、商品やコレクション、顧客、注文など、さまざまなデータに対応しています。
- Shopify Flow(ショッピファイフロー):「商品在庫がなくなったら自動メールを送信する」などのオートメーションを管理できるアプリで、プログラミングをせずに設定することが可能です。
取引円滑化に役立つアプリ
- Order Printer Pro(オーダープリンタープロ):請求書のPDFを自動で追加したり、下書き注文を印刷、エクスポートしたりでき、BtoB卸売ストアの事務処理を円滑化できます。
- Split Order(スプリットオーダー):サイズや重量超過の商品を別々の注文に分割をする機能があり、状況に応じて注文内容を変更できます。
- Ship Station(シップステーション):配送ラベルを低価格で印刷できるほか、ワークフロー自動化などで発送に関する業務を効率化できます。
購入数に合わせて割引を適用するアプリ
- Order Limits(オーダーリミッツ):商品のタイプやタグに基づいて、最小数量や最大数量など、数量や重量に関する条件付きのルール設定が可能です。
- Order Logic(オーダーロジック):製品ごとに最小数量や最大数量といった制限を設定できます。プログラミングの知識も不要です。
顧客獲得に役立つアプリ
- Faire Wholesale(フェアホールセール):オンラインBtoB卸売ECモール「Faire」と連携することで、海外の小売業者とのマッチングが可能になり、販路拡大を目指せます。Shopifyと商品や注文内容、在庫を同期することができるので、海外進出を狙う企業にもおすすめです。
- Shopify Forms(ショッピファイフォームズ):新規のメール登録者や卸売顧客などの登録を促すフォームをカスタマイズできます。表示の位置やタイミングを設定できるほか、顧客データの保存も一括で行えます。
3. Shopify Plusで卸売ストアを開設する
Shopifyには、B2B on Shopifyという企業間販売が可能になる機能があり、Shopify Plusプランに加入すると利用できるようになります。すでにD2Cストアを持っている事業者が、既存サイトとは別に卸売ストアを開設したい場合や、大規模な販売を行っている場合に適している方法です。
ShopifyのBtoB卸売を活用することで、外部アプリを追加することなく、企業間卸売取引に必要な機能を利用できます。BtoB卸売ストアのみの開設だけではなく、B2CやD2Cなどの小売ストアと卸売ストアの両方を構築することができます。購入企業に合わせて特定の価格を設定したり、決済条件を定義したりすることが可能で、複雑な手続きを踏むことなく卸売ストアを開設できます。Shopify B2B卸売で利用できる主な機能は、以下の通りです。
Shopify B2B卸売の機能一覧
- 会社プロフィール:取引先企業やロケーションを対象に、個別の決済条件やユーザー権限を設定できる
- 購入者別の商品公開:特定の購入者やロケーションに合わせた商品カタログを割り当てられる
- B2Bストア最適化:ストアテーマのLiquid(プログラミング言語)サポートやメールテンプレート、ブランディングなどのサポートが受けられる
- 数量ルール:商品やそのバリエーションに対して、最小値や最大値などの条件付きのルールを設定できる
- 価格表:顧客ごとに価格を設定し、会社プロフィールに割り当てられる
- 支払期日を記した決済条件:決済条件を自動的に設定でき、決済期限が迫った注文の代金を管理画面から追跡・回収できる
- 会社メタフィールド:会社とロケーションにカスタムデータフィールドを追加できる
- 簡単な再注文:顧客が再注文しやすくなる
- 柔軟な支払い受け取り方法:下書きや支払いリマインダー、請求書、商品受領後の支払いの条件などを設定できる
- チェックアウトで下書き注文作成:注文確認と注文承認が管理画面で行え、見積もり提案などができるようになる
- クレジットカード情報保護:チェックアウト時や顧客アカウントに登録されたカード情報を安全に保存できる
- B2Bロジックのカスタマイズ:Shopify Functionsを使って、顧客に合わせた配送方法や支払い方法をチェックアウト画面に構築できる
- 購入のセルフサービス:顧客が自分で購入・注文状況を追跡できるようになる
- グローバル展開:販売先の国や地域に合わせたストアフロント構築や通貨・免税対応ができる
- カスタムB2B:互換性のあるアプリを活用して、ビジネスに合ったサイト構築ができる
B2B on Shopifyは、さまざまな業界で活用されており、現在取り扱われている商品分野は、ファッション・アパレルや美容品・化粧品、食品・飲料品、家電製品、家具・インテリアなど多岐にわたります。BtoB向け卸売を始めたばかりである場合や、取引企業が限定的である場合には、パスワード保護機能やアプリを活用した卸売ストア開設がおすすめです。大規模な卸売ストア展開を目指している場合は、B2B on Shopifyの機能が使えるShopify Plusプランを活用してみてください。
ShopifyでBtoB向け卸売ストアを開設するメリット
低コストで始められる
パスワード保護機能を活用したBtoB向け卸売ストア開設なら、Shopifyのベーシックプランで低コストで始められます。卸売を始めたばかりの場合や、試験的に卸売販売に参入したい場合にも、必要な機能のみをアプリで追加することができるため、高額な予算を必要とせず、状況に応じてプランを変更したり、アプリを追加したりすることが可能です。
機能が充実している
Shopifyには、BtoB向け卸売ストアに必要な機能やアプリが充実しているため、小規模から大規模の卸売取引にも適しています。最初は最低限の機能を活用して顧客の動向を把握し、規模が大きくなるにつれてアプリを追加したり、プランをアップグレードしたりと、状況に合わせて変更することが可能です。特に、Shopify Plusプランでは、豊富なBtoB卸売向け機能が利用可能で、既存の自社ERPをShopifyに統合することも可能です。
越境販売ができる
Shopifyは多言語・多通貨に対応しているため、海外市場への参入を目指している場合にもおすすめです。Faire Wholesaleなど、海外の顧客獲得に役立つアプリを導入することで、日本国内だけでなく、世界各国での越境販売を目指せます。その際は、サイトを多言語化できる翻訳アプリも是非ご活用ください。
カスタマイズしやすい
Shopifyは卸売ビジネスの運営に必要な機能が充実しているため、企業情報をはじめ、顧客に合わせた価格設定、決済オプションなどをカスタマイズできます。BtoB向け卸売ストアの開設方法においても、規模や目的に合わせて選ぶことが可能です。初期費用を抑えたい、複雑な顧客管理を効率化ができる機能が必要、といったニーズに合わせて、構築・運営方法が選べます。
専門家に相談できる
Shopify B2B卸売の機能が付いたShopify Plusプランを検討されている場合は、料金プランの詳細から使用しているシステムとの互換性、移行の支援まで、専門家に相談することができます。Shopifyはどのプランでもライブチャットなどを通じて、24時間いつでもサポートチームに相談できます。Shopify Plusプランでは、電話またはライブチャットでの優先サポートが受けられます。
まとめ
ShopifyでBtoB向け卸売ストアを開設する方法として、パスワード保護機能を使う方法、アプリを導入する方法、Shopify Plusプランに加入する方法をご紹介しました。
ShopifyでBtoB向け卸売ストアを開設するメリットは、低コストで始められるだけでなく、さまざまな機能が充実しており、状況に合わせてアプリを追加したり、越境販売につなげたり、専門家のサポートが受けられることです。取引先の企業が多い場合や、取り扱う商品が多い場合には、Shopify Plusプランを是非ご利用ください。Shopify B2B卸売では、購入者別の商品公開や数量ルールの追加、グローバル展開などの機能が利用できます。
BtoB ECへの参入を目指したい場合や、小売ストアと卸売ストアの同時運営を行いたい場合は、Shopifyでのストア開設を検討してみてください。
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ShopifyのBtoB向け卸売ストアに関するよくある質問
ShopifyでBtoB卸売ストアを構築するのにおすすめのプランは?
BtoB卸売向けの機能である「B2B on Shopify」をご利用いただけるShopify Plusプランがおすすめです。この機能は、Shopifyの管理画面に統合されており、顧客ごとに固有のカタログやカスタム価格の設定など、さまざまな機能を使用することができます。
ShopifyのBtoB卸売ストアは海外の企業とも取引できる?
Shopifyで構築したBtoB卸売ストアでは、海外企業とも卸売取引ができます。Shopifyは越境ECにも対応しているため、海外へと販路拡大を目指す企業にもおすすめです。
Shopify PlusではないプランでもBtoB卸売ストアを構築できる?
ベーシックプランやスタンダードプラン、プレミアムプランでもBtoB卸売ストアを構築できます。その場合は、パスワード保護機能を活用したり、Shopifyアプリを導入したりして、必要な機能を追加することができます。
文:Masumi Murakami